モダン (Modern)
時代: 1970年から2000年頃
背景: ハイテック、ポストモダン、民間住宅開発、都市再開発
本ページでは、英国建築におけるモダン期を、おおむね1970年から2000年頃までとして扱います。これは、戦後の大量住宅建設と福祉国家的なモダニズムの時代が落ち着き、20世紀後半の新しい建築潮流が現れた時期です。
この時代の英国建築は、一つの様式でまとめることが難しい時代です。代表的な流れとしては、建物の構造や設備をあえて表に見せるハイテック建築、モダニズムの無装飾性に反発し、歴史的要素や色彩を遊び心を持って取り入れたポストモダニズムがあります。
住宅分野では、1970年代以降、公営住宅の大量建設は次第に減少し、民間デベロッパーによる郊外型住宅地が広がりました。また、1980年代以降のロンドンでは、ドックランズ再開発や倉庫転用、ロフトアパートメントなど、新しい都市居住の形も登場しました。
そのため、モダン期の物件には、標準化された郊外住宅、ハイテック建築、ポストモダン建築、倉庫転用、再開発エリアの集合住宅など、非常に幅広いタイプが含まれます。
歴史・文化的背景
1970年代以降の英国では、戦後の楽観的な社会住宅政策が変化し、経済の停滞、産業構造の転換、都市の再開発、民間投資の拡大が建築に大きな影響を与えました。
ハイテック建築は、1970年代から1980年代にかけて、ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャース、ニコラス・グリムショウ、マイケル&パティ・ホプキンスらによって発展しました。構造、配管、ダクト、エレベーター、外部階段などを隠すのではなく、建築の表現として積極的に見せる点が特徴です。
一方、ポストモダニズムは、モダニズムの「少ないほど良い」という考え方に対する反応として登場しました。古典的な柱、ペディメント、アーチ、キーストーン、色彩、記号性などを、時に誇張し、時にユーモラスに用いました。1980年代の経済ブームや商業開発とも結びつき、オフィス、住宅、商業施設などに影響を与えました。
住宅市場では、全国規模のハウスビルダーによる標準化された住宅地が増えました。レンガ造り、切妻屋根、複層ガラス、ガスセントラルヒーティング、付帯ガレージ、エンスイートなど、現代の英国住宅に近い設備が普及していきます。
建築的特徴
ハイテック・後期モダンの特徴
- 露出した鉄骨構造。構造体を外観の主要なデザイン要素として扱う
- 外部に見せる設備。ダクト、配管、エレベーター、階段などを外側に配置
- ガラスのカーテンウォール。大きなガラス面と透明感のある外観
- 大きなアトリウム。オフィスや公共建築で開放的な内部空間を作る
- 軽量クラッディング。金属パネル、ガラス、プレハブ部材を使用
- 柔軟な内部空間。将来の用途変更や設備更新を意識する
- ケーブル、トラス、張力構造。構造技術を視覚的に表現する
ポストモダンの特徴
- 歴史様式の引用。柱、アーチ、ペディメント、キーストーンなどを自由に使用
- 大胆な色彩。ストライプ、帯状装飾、鮮やかな色の組み合わせ
- 遊び心のある装飾。モダニズムの厳格さから離れた表現
- 混合素材。レンガ、ガラス、金属、レンダー、石材風素材を対比的に使う
- 象徴性と記号性。建物に分かりやすい形やイメージを与える
- 非対称または意図的に崩した構成。古典主義を正統的ではなく再解釈する
主流住宅の特徴
- 民間ハウスビルダーによる住宅地。全国的に標準化された住宅が増える
- レンガ造りと切妻屋根。伝統的に見えるが、工法と間取りは現代的
- ネオ・ジョージアン、ネオ・チューダー風の簡略化された装飾
- 複層ガラス、ガスセントラルヒーティング、システムキッチン
- 付帯ガレージまたは駐車スペース
- 比較的小さめの区画。戦間期住宅より敷地や部屋が小さいことが多い
- 倉庫転用住宅。旧工業建築をロフトアパートに改修する例が増える

インテリアと装飾
1970年代から1990年代にかけて、住宅のインテリアは大きく変化しました。各年代ごとに異なる特徴があります。
- 1970年代。ブラウン、オレンジ、グリーンなどの色調、シャグカーペット、ウッドチップ壁紙、造作収納
- 1980年代。ガラスブロック、鏡面仕上げ、パイン材キッチン、大胆な色使い
- 1990年代。ベージュ、マグノリア、白を基調としたニュートラルな内装、ラミネートフローリング
- オープンプラン化の始まり。キッチン・ダイナーやリビングとダイニングの一体化が進む
- ロフトリビング。露出レンガ、鉄骨、ダクト、木床など、倉庫転用の質感が人気に
- 設備の近代化。エンスイート、ビルトイン収納、システムキッチン、セントラルヒーティングが標準化


V&Aの2011年の展覧会「Postmodernism: Style and Subversion 1970–1990」は、長く評価が分かれていたポストモダンデザインを再評価するきっかけとなりました。現在では、1980年代から1990年代の建築も、20世紀後半の文化を示す重要な資料として見直されています。
Kens Estateの視点では、この時期の住宅は、築年数、管理状態、断熱、窓、屋根、配管、電気設備、サービスチャージ、修繕計画の確認が重要です。外観は比較的新しく見えても、建物によっては大規模修繕や設備更新が必要な時期に入っている場合があります。
物件識別のポイント
モダン物件の典型的特徴:
- ✓ 1970年から2000年頃の建築または大規模改修
- ✓ 住宅の場合、レンガ壁、切妻屋根、複層ガラス、付帯ガレージ
- ✓ 戦間期住宅より標準化された間取り
- ✓ 郊外の民間開発住宅地に多い
- ✓ ハイテック建築では、露出鉄骨、ガラス、外部設備が目立つ
- ✓ ポストモダン建築では、歴史的引用、色彩、遊び心のある装飾が見られる
- ✓ 倉庫転用では、レンガ外壁、大きな窓、露出構造が残る
- ✓ 1990年代以降、オープンプランのキッチン・ダイナーが増える
混同されやすい時代: 戦後、コンテンポラリー
モダン期は範囲が広いため、戦後期やコンテンポラリー期と混同されやすいカテゴリです。戦後期の建築は、公共住宅やニュータウン、コンクリート造の団地、ブルータリズムの影響が目立つ一方、1970年以降のモダン期では、民間開発、ハイテック、ポストモダン、倉庫転用などが加わります。
コンテンポラリー期との違いは、環境性能と規制への対応にあります。2000年以降の建築では、断熱性能、気密性、低炭素、太陽光、ヒートポンプ、BREEAM、Passivhausなどがより重要になります。1970年から2000年頃の物件では、こうした性能が後から改修されているかどうかが重要な確認点です。
代表的事例
モダン期の建築は、商業建築、オフィス、空港、再開発エリア、郊外住宅地、倉庫転用住宅などに幅広く見られます。ロンドンでは、シティ、ドックランズ、ワッピング、ショアディッチ、カナリー・ワーフ周辺などに、この時代の変化が強く表れています。
物件を見る際には、建築デザインだけでなく、建物の管理、長期修繕、断熱改修、窓や外壁の状態、リース条件、サービスチャージなども重視する必要があります。特にフラットや倉庫転用物件では、共用部と建物全体の管理状態が資産性に大きく関わります。
住宅・都市住宅の代表例
- ロンドン・ドックランズの再開発住宅(1980年代以降)、倉庫転用と新築集合住宅の代表例
- ワッピングの倉庫転用住宅、旧産業建築を住宅へ転用した例
- ショアディッチ周辺のロフトアパートメント、都市型居住の変化を示す例
- M25周辺の民間住宅開発地、1970年代から1990年代の郊外型住宅地
- カナリー・ワーフ周辺の初期再開発住宅(1980年代後半以降)、ロンドン東部再生の象徴
公共建築・関連建築の代表例
- ロイズ・ビルディング(ロンドン、1986年)、ハイテック建築の代表例
- セインズベリー・ビジュアル・アーツ・センター(ノーリッチ、1978年)、初期ハイテック建築
- スタンステッド空港ターミナル(1991年)、構造と設備を明快に見せる空港建築
- ウォータールー・インターナショナル・ターミナル(1993年)、20世紀後半の交通建築
- No.1 ポールトリー(ロンドン、1997年)、ポストモダン建築の代表例
- TV-am スタジオ(カムデン、1980年代)、ポストモダン建築の例
掲載画像について
このページに掲載している画像は、建築様式や住まいの雰囲気を説明するための参考イメージです。当社で取り扱っている売買物件・賃貸物件の実際の写真、または特定の物件を示す画像ではありません。
その他の建築様式

ジョージアン Georgian
左右対称の外観と整然と並ぶ窓、高い天井が特徴。端正で均整の取れた英国住宅様式です。

リージェンシー Regency
白いスタッコ外壁や優雅な曲線、装飾的なバルコニーが特徴。ロンドンの上品な街並みを代表します。

ヴィクトリアン Victorian
レンガ造りの外壁、出窓、装飾的なディテールが特徴。現在も英国各地で多く見られる住宅です。

エドワーディアン Edwardian
明るく広い室内、大きな窓、広めの間口が特徴。ヴィクトリアン住宅より開放的な傾向があります。

戦間期 Interwar
ベイウィンドウ、瓦屋根、前庭を備えた郊外住宅が中心。実用性とゆとりを重視した住宅です。

戦後 Post-war
住宅不足への対応から大量に建てられた、簡素で機能的な住宅。戸建てから集合住宅まで幅広く見られます。

コンテンポラリー Contemporary
現代の素材や設備、環境性能を取り入れた住宅。時代に合わせて進化するデザインが特徴です。