戦後 (Postwar)
時代: 1945年から1970年頃
背景: 第二次世界大戦後の復興、住宅不足、公営住宅、ニュータウン
戦後期は、第二次世界大戦が終結した1945年から、おおむね1970年頃までを指します。英国は戦争による空襲被害、深刻な住宅不足、老朽化した過密住宅、スラム問題に直面しており、政府と自治体は大規模な住宅供給に取り組みました。
この時代の建築は、ジョージアン、ヴィクトリアン、エドワーディアンのような装飾的な時代様式とは大きく異なります。戦後建築の中心にあったのは、早く、多く、安全で衛生的な住宅を供給することでした。そのため、外観は簡素で機能的になり、プレハブ、コンクリート、標準化された部材、団地計画、タワーブロック、ニュータウンなどが重要なテーマになります。
一方で、戦後建築は単に「簡素な住宅」だけではありません。福祉国家の理想、モダニズム建築、住環境の改善、緑地を取り入れた団地計画など、当時の社会的理想を強く反映しています。近年では、戦後の公営住宅やブルータリズム建築の一部が、重要な建築遺産として再評価されています。
歴史・文化的背景
第二次世界大戦後の英国では、住宅の絶対数が不足していました。ロンドンを含む多くの都市では、空襲によって住宅が破壊され、戦前から続いていた過密住宅やスラムの問題も残っていました。こうした状況に対応するため、政府と地方自治体は公営住宅の大量供給を進めます。
戦後初期には、工場で生産されたプレハブ住宅が一時的な解決策として導入されました。これらは短期利用を想定した住宅でしたが、実際には長く使われたものも多くありました。その後、レンガ造やコンクリート造の低層住宅、メゾネット、タワーブロック、デッキアクセス型団地など、さまざまな住宅形式が建設されていきます。
また、都市の過密を緩和するため、ニュータウンの開発も進みました。スティーブニッジ、ハーロウ、クローリー、バシルドン、ヘメル・ヘムステッド、後にはミルトン・キーンズなどが代表例です。これらの町は、住宅、学校、商業施設、緑地、道路を総合的に計画する新しい都市づくりの実験でもありました。
1950年代後半から1960年代には、モダニズムとブルータリズムの影響が強まり、コンクリートを大胆に使った集合住宅や公共建築が増えます。バービカン、トレリック・タワー、サウスバンク周辺の文化施設などは、この時代の建築思想をよく示しています。
建築的特徴
外観
- 簡素で機能的な外観。装飾は少なく、実用性が重視される
- プレハブ住宅。戦後直後に多く供給された工場生産の住宅
- レンガ造の低層住宅。公営団地や郊外住宅地で広く見られる
- コンクリート構造。集合住宅、タワーブロック、公共建築で多用される
- フラットルーフまたは緩勾配屋根。モダニズムの影響を受けた住宅に多い
- 大きめの窓。水平比率の金属製または木製窓が見られる
- デッキアクセス。共用外廊下から各住戸に入る形式
- タワーブロックとスラブブロック。1950年代後半から1960年代に多く建設
- 共用緑地を持つ団地計画。建物間に広場、芝生、遊び場、歩行者空間を配置
- 駐車場やガレージ。自動車利用を前提にした計画が増える

住宅形式
戦後期の住宅は非常に多様です。プレハブ・バンガロー、低層テラス、セミデタッチド住宅、メゾネット、タワーブロック、スラブ型集合住宅、ニュータウンの住宅などが含まれます。
低層住宅では、戦前の戦間期住宅よりも外観が簡素で、装飾が少なく、窓や間取りがより機能的です。集合住宅では、エレベーター、共用廊下、共有緑地、遊び場などが計画に組み込まれました。
ロンドンでは、ロウハンプトンのアルトン・エステート、ノース・ケンジントンのトレリック・タワー、バービカン・エステートなどが、戦後住宅と都市計画の代表例として知られています。
インテリアと装飾
戦後のインテリアは、戦前の格式あるレセプションルーム中心の住まいから、より日常的で機能的な住まいへと変化しました。
- オープンプランまたはセミオープンプラン。リビングとダイニングをつなげる考え方が広がる
- 機能的なキッチン。収納、作業台、調理設備を効率的に配置
- 造作収納。限られた面積を有効に使うための収納が重視される
- シンプルな壁と天井。装飾的なコーニスやシーリングローズは少ない
- リノリウム、ビニール床、板張り床、カーペットなど実用的な床材
- ミッドセンチュリー家具。Ercol、G Plan、Robin Day などの影響を受けた家具
- 明るい色彩。1950年代以降、淡い色や明るい家具が普及


1951年のフェスティバル・オブ・ブリテンは、戦後英国の明るく近代的なデザイン像を示す重要な出来事でした。住宅、家具、グラフィック、製品デザインにおいて、簡潔で前向きなモダンデザインが広がっていきます。
Kens Estateの視点では、戦後住宅を見る際には、建築様式だけでなく、建物管理、共用部の状態、修繕履歴、断熱性能、窓の更新状況、リース条件などを確認することが重要です。特に集合住宅では、外観だけでなく、建物全体の管理体制が住み心地と資産価値に大きく関わります。
物件識別のポイント
戦後物件の典型的特徴:
- ✓ 1945年から1970年頃の建築年
- ✓ 装飾の少ない簡素な外観
- ✓ レンガ、レンダー、コンクリートの使用
- ✓ 大きめで水平比率の窓
- ✓ フラットルーフまたは緩勾配屋根
- ✓ オープンプランまたはセミオープンプランの間取り
- ✓ 公営団地やニュータウン内の計画的配置
- ✓ 共用緑地、駐車場、歩行者動線を含む団地計画
- ✓ タワーブロック、メゾネット、デッキアクセス形式
混同されやすい時代: 戦間期、モダン期
戦後住宅は、戦間期住宅と比較すると、装飾が少なく、より機能的で、プレハブやコンクリートなどの工業的な材料・工法が目立ちます。戦間期住宅は、モック・チューダー、ベイウィンドウ、瓦屋根、私道、広い庭など、より郊外住宅らしい温かみのある外観を持つことが多いです。
一方、1970年代以降のモダン期住宅とは境界が曖昧になることがあります。1970年以降になると、民間開発の標準化された住宅地、ポストモダン、ハイテック、倉庫転用など、別の建築傾向が強まります。
代表的事例
戦後建築は、公営住宅、ニュータウン、文化施設、公共建築、集合住宅に幅広く見られます。長く評価が分かれた時代でもありますが、近年では設計思想や都市計画上の価値が見直され、保存・再生の対象となる建築も増えています。
ロンドンで戦後物件を見る場合、バービカン、ロウハンプトン、ブリクストン、ポプラー、ノース・ケンジントンなどで、戦後の集合住宅や団地計画を見ることができます。物件選びでは、建築としての魅力だけでなく、管理費、修繕計画、共用部、エレベーター、外壁、窓、断熱、防音などの実務的な確認が重要です。
住宅・都市住宅の代表例
- アルトン・エステート(ロウハンプトン、1950年代)、ロンドンの戦後公営住宅計画の代表例
- バービカン・エステート(ロンドン、1960年代以降)、住宅・文化施設・都市計画を組み合わせた複合開発
- トレリック・タワー(ノース・ケンジントン、1972年完成)、ブルータリズム住宅の代表例
- ザ・ローン(ハーロウ、1951年)、英国初期のタワーブロックとして知られる
- パーク・ヒル(シェフィールド、1960年代)、デッキアクセス型集合住宅の代表例
公共建築・関連建築の代表例
- ロイヤル・フェスティバル・ホール(ロンドン、1951年)、戦後モダニズム文化施設
- ヘイワード・ギャラリー(ロンドン、1968年)、サウスバンクのブルータリズム建築
- ナショナル・シアター(ロンドン、1976年完成、設計は1960年代)、戦後ブルータリズムの代表的文化施設
- スティーブニッジ、ハーロウ、クローリー、バシルドン、ミルトン・キーンズ、戦後ニュータウンの代表例
掲載画像について
このページに掲載している画像は、建築様式や住まいの雰囲気を説明するための参考イメージです。当社で取り扱っている売買物件・賃貸物件の実際の写真、または特定の物件を示す画像ではありません。
その他の建築様式

ジョージアン Georgian
左右対称の外観と整然と並ぶ窓、高い天井が特徴。端正で均整の取れた英国住宅様式です。

リージェンシー Regency
白いスタッコ外壁や優雅な曲線、装飾的なバルコニーが特徴。ロンドンの上品な街並みを代表します。

ヴィクトリアン Victorian
レンガ造りの外壁、出窓、装飾的なディテールが特徴。現在も英国各地で多く見られる住宅です。

エドワーディアン Edwardian
明るく広い室内、大きな窓、広めの間口が特徴。ヴィクトリアン住宅より開放的な傾向があります。

戦間期 Interwar
ベイウィンドウ、瓦屋根、前庭を備えた郊外住宅が中心。実用性とゆとりを重視した住宅です。

モダン Modern
装飾を抑えた外観、開放的な間取り、大きな窓が特徴。機能性を重視した住宅デザインです。

コンテンポラリー Contemporary
現代の素材や設備、環境性能を取り入れた住宅。時代に合わせて進化するデザインが特徴です。